今のところ艦これ日記が中心です。先輩提督の皆様のイベントや深部海域攻略アドバイスに深い感謝をしつつ。
 「艦これ変想」は、艦これを題材にした二次創作です。ご笑納ください。
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遠いどこかの港で 6:朝の風景

 生活リズムだけは太平楽な現実世界の自分が仮想世界にログインする時間はまちまちである。ただ、演習や課題任務が切り替わる朝の5時にどちらに居るかといえば、彼女達が居る仮想空間側の方が多いかも知れない。一応他の仮想空間の様子も見てはいるが、簡単にチェックだけ済ませるだけなので、自分にとっての仮想空間≒彼女達との母港生活という感じである。
 そんな感じで朝を迎える。現実世界は冬真っ盛りであり、暖房をつけてた上で厚着をしているが、こちらに来れば白い二種軍装と心地よい海風に包まれ、現実世界の寒さを忘れることが出来る。平常時なので特に忙しいということもなく、デスクランプだけ灯した執務机に座り、モニターで様々な情報をチェックしていった。
 そうこうしているうちにモニター内の時計が5時を回る。さて、今日の任務開始と行こう。

 最初にチェックするのは朝の部の演習相手だ。ふむ。有り難い事に「二艦放置」と呼ばれる状態にしている提督が4組、残り1組は潜水艦5隻の構成だ。
 「二艦放置」とは、ログアウトしている間、第一艦隊の編成をLv30以上の彼女達二人だけに任せて待機状態にすることだ。自分も大抵Lv85の大井と北上に第一艦隊を任せてログアウトしたり、そのまま、昨日のように母港で彼女達と親交を結んだりしている。実質演習相手の為となるこの待機は、キラ付け出撃を待つときのように埠頭の待機室で待っている必要はない。仮想空間の演習制御システムが、自分の第一艦隊に配備された彼女達の装備スロットはそのまま、現在のスペックから多少落とした数値を持つ「コピー」を相手提督の演習海域に出現させるのだ。自分のモニターのログには、その結果が表示される。大抵は敗北だ。とはいえ、派遣した側にはデメリットは一切生じないので構わない。なお、コピーされる第一艦隊の内容は随時演習制御システムに反映されるので、提督達が出撃を頻繁にしている時間帯に演習出撃すると「ガチ編成」や「育成編成」に当たることがある。無難に演習を終えたい時は朝の部は朝5時から7時前、昼過ぎの更新後は17時迄に済ませてしまうのが良い。


 そもそも演習とは実戦よりも低コストで高い経験値を取得するのが目的だから、仕掛ける側に成果が反映されればそれで良いのである。そんな訳で、提督達の間でログアウト時の「二艦放置」は暗黙の了解になっていると言っていい。とはいえ、中には「嫁」と呼ぶ位溺愛する娘を最高Lvである99まで上げ、彼女のみで放置し、その「愛の深さ」を艦隊名や提督一行メッセージに込めて見せつけるというラブラブな提督も居る。またこのような「暗黙の了解」というのを嫌う提督もいるし、育成編成のまま睡魔に負けてログアウトしてしまう提督も居る。そこら辺は自由だと自分は思っている。

 「旗艦は那珂。金剛型4人、陸奥」モニターを開いて呼び出しをする「対潜水艦編成は、旗艦木曽、名取、夕張、能代、武蔵、陸奥。以上だ」
 実時間で10分もしないうちに官舎入り口前に11人が勢揃いした。今日中に改二可能になる那珂はもう、踊り出さんばかりの状態である。金剛型達は口々におめでとうと言い、同じように改二を目指している木曽は「気長にがんばれよ」とひと言。名取は陸奥と武蔵の隙間から、えーっ、すごーい、と目をぱちくりさせている。一方、夕張は能代の頬に軽く手を添え、腰に常備しているポーチから取り出したブラシで彼女の頬にチークを軽くさしていた。無論、夕張自身のメークは完了済みだ。
 「朝だから、控えめで」
 「これは……良い感じ!」夕張がすかさず出したコンパクトを手にした能代が首をかしげたりしてポーズをとる「夕張さん、感謝です!」
 夕張は軽巡では唯一装備スロットを4つ持っている。しかし、それ以外の小物も持ち歩き、軽いメイクを欠かさない。間宮食堂で同年代の軽巡にメイク教室をしている所を見かけたこともあった。如月もちゃっかりその中に混じっていた。自分も誘われたことがあったが、軍服姿であることと、故あって現実世界でもメイク等で身を飾らない自分のポリシーを説明すると、「残念」という顔をして肩をすくめた。
 
 パンパンと手を叩いて皆の注意を引いた。
 「今日はどうやらツイている。さっくり片付けるぞ」
 「「了解!」」
 「那珂ちゃんスマイルー!」
 一人だけテンションが破格に違う娘に苦笑し、埠頭に向かって駆け足命令を出した。

 思ったとおり全てS勝利で終わらせ、演習組の殆どを一旦官舎へ戻す命令をだし、自分は工廠へ歩きながら開発と建造に関する課題任務をチェックする。私の後ろを歩くのは勿論武蔵だ。
 「最近は15.5cm副砲狙いばかりだな?」
 「羽黒が改になれば重巡の改育成は終わる。全員に持たせたいし、予備も持っておきたい」
 だが、こちらはどうやらツイてなく、失敗や普通の機銃のみで終わった。建造課題はALL30。残時間計を見るに駆逐艦だろう。
 モニターを見ると、普通遠征に出した3つの艦隊が戻ってくる時間が近い。あの課題をやらねばならない。
 武蔵に官舎待機を命じ、一人治療ドック棟へ向かった。

 治療用ドック棟には、治療待ちの彼女達が控えていた。キラ付け作業時の随伴をして負傷した駆逐艦5人だ。全員、小破から大破のまま一夜を過ごさせている。これから彼女達に辛い命令を立て続けに出さねばならない。だが、これも課題任務と母港の戦力強化の為である。毎日やってはいるが、胸にチクリとくるものがある。この部分だけでもモニター操作で済ませたいと思うことはあるが、都合の良いことばかりではないのは現実世界と同じだ。
 「皆、一晩我慢してくれた。……入渠開始」
 ここには治療用ベッドが4床ある。ベッドとはいっても実のところ浅い浴槽にマットが敷かれたものである。ボロボロになった服を身につけたまま、小破から中破の4人が倒れ込むようにベッドに横になると、壁に付けられた蛇口から液体が流れ出す。この液体は資源倉庫にある油と鋼を材料にして作られた治療液だ。浴槽内の液体はフィルタを通して常に循環している。ミントグリーンの液体の色や熱すぎずぬるすぎない湯温と相まって、傷ついた彼女達が横たわっていなければ現実世界の「全自動浴槽」と類似した様である。
 液体が彼女達を包むと、彼女達の傷がゆっくりと癒えてゆき、すすに汚れた服も綺麗になっていく。
 治療に使う油と鋼の量は、傷の重さと艦種や形式によって異なる。戦艦が大破した時などはかなりの量を必要とするので、大海戦時には出撃と修理の為に資源があっという間に減っていく。また、完治までの時間も、必要資源量と同様、差がある。戦艦や正規空母で大破となれば半日以上かかることはざらだ。だが、液体に高速修復剤を混ぜると瞬時に回復する。とはいえ、この修復剤、通称「バケツ」は、任務課題クリアか、遠征先で運が良ければ取得できるものであり、無計画に使えるものではない。大海戦の時には大量に必要とするため、20~30分程度の治療時間ならバケツを使用せず横になってもらっている。また、自分が数時間以上ログアウトするときは、その間ゆっくり治療を受けてもらうようにしている。
 今回の治療は、全員キラ付け随伴艦のためレベルは1~2だ。そのため、小破なら治療も2~3分で終わる。一番軽微だった朝潮の治療が終わり、入れ替わりに大破の霞がベッドの縁に腰掛け、こちらをギラッと睨んだ。
 「……ったく、何考えてこんな事してるんだか」
 「……」
 同じセリフを、同じ霞から何度聞いただろう。満潮や曙など、性格のキツイ彼女達の反応は、元々小胆な自分にはかなり堪える。そう……提督に着任し、チュートリアル課題任務の為に初めて彼女達の一人を近代化改修や解体に供した時は、しばらくの間、執務室に閉じこもって悩んでしまった位だ。
 だが今は自分なりに答えを出した。全ては戦力強化のため、と。
 
 霞がベッドに横たわったことで、5人を入渠させる「艦隊大整備」の課題はクリアした。その事で15回の補給を行う「酒保祭り」の課題が現れる。そして、近代化改修2回と、「軍縮条約対応」課題が待っている。

 補給や、同じ遠征を繰り返す場合の指示はモニターで済ませる事も可能だが、自分は時間があるときは出来るだけ立ち会うようにしている。朝の遠征課題任務は計13回。月曜日は週間課題任務が更新されるため、30回の遠征任務課題も出る。だから、月曜日だけは20分から40分で帰投する短時間遠征を何度も繰り返すことになる。慌ただしいので、彼女達が混乱しないよう、しっかりと指示を出さなくてはならない。補給は、資源倉庫内にある補給スペースで行われている。
 資源倉庫に入ると、補給機前に2人の軽巡駆逐艦達が既に集まっていた。入り口近くに居た3人……近隣の資源基地から、母港付近の警備がてら資源を持ち帰る短時間遠征の任に付いている巻雲と満潮と霰が自分に気づき、敬礼する。3人三様だが。巻雲はぶかぶかの袖を振り回してるだけだし、満潮はしぶしぶという感じ、霰はうつむき加減で額にちょん、とそろえた指をあてるという具合だ。
 「おはようございます司令官さま。巻雲、今日も元気にお役立ちです!」
 「とっとと次の指示出してよね」
 「ただいま……」
 大潮や霞と違って霰は大人しいというか、本当に言葉少ない娘だ。表情を読み取るのも難しい。陽炎と不知火は彼女と縁があるため、彼女について何か感じた事があったら教えて欲しいと指示を与えている。
 「ちゃ、ちゃんと並んでくださぁーい!」
 阿武隈が両手をぶんぶん振って、駆逐艦達の注意を引こうとしているが、彼女よりも先に着任して遠征に慣れている駆逐艦達はぺちゃくちゃしゃべりながらもそれなりに列を作って並んでいる。

 通常遠征に出るのは改になる前か、改になったばかりの駆逐艦と由良と阿武隈が中心だ。由良は第4艦隊旗艦を長く勤めている。第2艦隊の旗艦は現在阿武隈だが、こちらは軽巡で急いで育成する予定がない娘にまかせている。阿武隈の前には能代、鬼怒、川内、名取などが勤めていた。阿武隈が改になったので、そろそろ多摩に切り替え予定である。
 さて、遠征組が並ぶ補給機は、彼女達が海上行動する上で必要となる弾と油を配給する機械だ。艦種や形式、行動内容によって消費する弾と油の量は変わる。同じ場所に出撃しても、戦艦と駆逐艦では消費する量が段違いだ。補給機は彼女達のIDを読み取り、必要分の油をドリンクパックにしたものと、弾を包んだパックをトレーに出す。弾は、装備ブロックと同じように、装備スロットモニターを表示させてパックを吸い込ませれば良い。油は、現実世界の人間と同じようにストローで飲む。複数個ある場合は飽きないように違う味になってると彼女達から聞いた。駆逐艦達は消費量が小さいので乳酸菌飲料みたいな小さなパックだし、戦艦だと500ml紙パックが2つなんてこともある。
 「ぷはー! 牛乳を沢山飲んで、夕雲姉さんみたいになるのです!」
 夕雲はレア駆逐艦で、巻雲の姉である。巻雲はよく彼女の事を口にするため気にはなっているのだが、なかなか出会えずにいる。しかし、何故牛乳で夕雲みたいになるのだろう? 牛乳で成長となると、幾つかのことしか思い当たらないが……
 「巻雲、夕雲はどんな感じなんだい?」
 「夕雲姉さんは、それはそれはもう、とてーも素敵なお姉さんです。巻雲をとっても大事にしてくれるのです。それに比べて秋雲は……けぷっ」
 自分は、トントンと巻雲の背中を叩いてやる。そういえば、夕雲は機雷に触れて航行不能となった巻雲をしばらくの間曳航し……しかし巻雲の被害が深刻なため、乗員を収容した後雷撃処分している。秋雲はそんな二人の姉なのだが、「スケッチ事件」で巻雲をひどくびっくりさせたため、どうやら巻雲は秋雲のことを「面倒な姉」と感じているらしい。
 「うふふ~ 姉妹仲がいいのは良いことよねぇ~」
 龍田と同じ不思議系の荒潮が、巻雲の後ろからすぅーっと首を出してきた。
 「私達は、みーんな、てんでばらばらぁ」
 ふわふわぁとした口調だが、荒潮の史実もまた悲しい。直撃弾が艦橋を吹き飛ばし、士官達の多くが即死している。姉の朝潮が助けに来るも、荒潮の目の前で撃沈されてしまう。

 普段この世界で彼女達に接していると忘れがちなのだが、史実における日本海軍軍艦の末路の殆どが悲惨なものである。太平洋戦争の艦ごとや海戦の史実のあらましを読むようになって以降、彼女達の「笑顔」と「史実」という光と影に挟まれ、悩むことが多くなったように思う。聡い那智は自分のそんな変化に気づいてるのか、かつて私が発した言葉を使い「この世界の私達は、この世界でのみの存在なのだ」と先日、静かな声で言った。そして、何かあるならきちんと私に話してもらいたいとも。
 しかし、何故「私」なのだろう。私達ではなく。多分、自分が特定の秘書艦を置かず、彼女全員になるべく公平に接しているのを「異例」と捉えているのだろう。確かに彼女は聡いし、物怖じせずにはっきりと問題点を具申してくれる。しかし、自分は意見を広く求めたいのだ。現実世界の自分がそうであるように、那智が気づかぬことを他の彼女達が気づいているやも知れぬ。

 「みなさん、準備ができたら埠頭に戻りましょう」
 由良が優しい声で駆逐艦達を促す。パックをごみ箱に捨てて弾を補給した駆逐艦達は、彼女に従って資源倉庫から第二埠頭へと戻る。第2から第4まで11人が油のみか油と弾を補充したため、15回の補給課題はクリアとなった。

 遠征組に今日の短時間遠征の予定を指示した後、工廠へ向かう。歩きながらモニターで熊野、扶桑、山城に工廠第二棟へ出頭するよう指示を出す。途中で治療用ドック棟に寄り、治療が終わって間がない霞には官舎で待機の指示を出し、既に治療が終わって落ち着いた4人に自分と同行するよう指示した。睦月、暁、若葉、五月雨である。 
 「提督、これから何をすればいいんですか?」
 五月雨が、くりっとした明るい瞳で自分を見る。
 「ん、ああ」すぅと息をした「近代化改修というのを行う。君達の身をもって先任艦を強化するのだ」
 「あの……私達はどうなるのでしょうか」
 「君達の存在は消えるが、君達の心は先任艦の内に残る」
 今まで悩みに悩んだ結果、たどり着いた答えを今日も彼女達に伝える。
 「君達は深海棲艦から解放された。二度とあの暗闇に戻ることは無い。皆と共に深海棲艦を叩きに行くのだ」

 工廠の第二棟は近代化や改装、解体向けの為にある。鉄扉を開けて中に入ると、足を組んでベンチに座っている熊野がこちらを見た。
 「相変わらずのろまなのねぇ……」
 「努力する。さて、作業にかかるぞ」
 
 第二棟は開発や建造用の第一棟よりも小さい。棟内は、供用室という扉着きロッカーのような小さな個室が5つと、準備室である半透明のカーテンにつつまれたシャワーブース様の個室1つで構成された近代化・改装スペースと、天蓋から下がるカーテンに包まれたベッドと控え室がある解体スペースに別れている。
 駆逐艦達は、これから何が起こるのだろうかと棟内を不安そうに見回している。自分は四人に向き直り
 「整列! 手順を説明する。後ろに見える供用室に各員入る。最初の号令でイ室には睦月、ロ室には暁が入る。その間、残り二人はそこのベンチで待機。次の号令でイ室には若葉、ロ室には五月雨が入れ。──質問は?」
 五月雨は何か言いたそうにしたが、目を閉じてうつむいた。睦月は深呼吸をしている。暁は両手をぎゅっ、ぎゅっと握りレディの意地を保とうとしているのだろう。だが、若葉だけは静かな表情で立っていた。
 「質問はない」
 若葉は静かに告げた。姿や声音は幼いが、彼女がこぼす言葉は大人びた……いや、自分と同じ歳か、それ以上の歳の人間が持つ諦観を感じさせる。
 「……よろしい。では、睦月、暁、供用室へ」そして振り返り「熊野、準備だ」
 「承りましてよ」
 優雅な仕草で立ち上がった熊野は颯爽とした歩みで準備室へ入った。天井からぽつりぽつりと下がっている暗めの灯りの下、カーテンの向こうの熊野のシルエットがぼんやりと見える。さらりさらりと服を脱ぐ音がし、
 「準備できましたわ」
 開発や建造と違い、近代化や改装、解体には第一艦隊旗艦と共に操作するような装置は必要としない。モニターで管理する。モニターには現在、準備室に居る熊野の現在のスペックと、イからホまである供用室のイとロに睦月と暁が入っていることが表示されている。睦月と暁のフェイスアイコンの横に、火力と雷撃のスペック上昇期待を示すアイコンが表示されている。確認ボタンを押すと、それぞれどれだけの上昇値が期待できるかと、「いいえ」「はい」のアイコンが表示される。
 「確認ヨシ、近代化作業実行……開始!」
 微かなシュゥッという音がした後、準備室が虹色の光で包まれた。
 「まあまあ……ですわね」
 火力+2、雷撃+2の期待値だったが、熊野のステータスを見るとそれぞれ+1されただけだった。自分はモニターを一旦消し、供用室の扉を開けてチェックする。分かっているが、中には誰も居ない。常夜灯ほどの灯りの下、ゆったりとした一人用ソファがあるだけだ。声に出さずに祈りの言葉を口にし、ロ室も同じようにチェックする。
 「よし。若葉、五月雨」
 「は、はいっ」
 「わかった」

 「対空もしっかり上げて下さらないと困りますわ」
 「まずは装甲。次に火力と雷撃が基本だ。すぐにとは断言出来んが航巡も重巡も全て最大値まで上げている。心配するな。戻って良し」
 「そう……」
 つまらなそうな表情を見せたが、肩をちょっとすくめて熊野はくるりと振り向き、棟から出て行った。

 解体。
 近代化はまだ言い訳ができる。しかし、解体はすなわち彼女達の身体を資源に戻す作業であり、解体した彼女達の心身についての「言い訳」を作ることは自分には出来なかった。確かに資源は母港のあらゆる活動の源である。だが解体する彼女達の心を特定の対象に「託す」と言えない。乱暴な言い方をすれば「国のために腹を切れ」というのと変わらないのだ。そのため自分はこの世界に来てしばらくの間この作業が終わると執務室に閉じこもるか、しばらくログアウトして落ち込んでいたのである。今は以前のように深く落ち込むことは無いが、解体は余剰認定した戦艦、しかも救出する確率が多い姉妹が主な為、自分にとって辛い時であることは変わらない。
 
 控え室をノックした。
 「どうぞ」
 山城の声だ。自分はそっと扉を開いた。入口の様式は違うが内装は茶室と同じような作りである。本来解体スペースには控え室は無かったのだが、自分がビルドした。控え室は棟の壁に面しており、灯り取りの障子を通して朝の光が入ってきている。床の間の方を向いている姉妹二人の黒髪は障子越しの光でしっとりとした美しさを放っていた。
 「時間だ。準備を」
 姉妹は服を乱すこと無く座ったままこちらに向き直った。
 「先任の私達をお願いします」
 指先を揃えてお辞儀をする二人に、自分は帽子を取って礼をした。
 「了解した」

 姉の解体が終わった後、山城を控え室から呼んだ。解体用ベッドのカーテンを開く。掛け布団は無い。オフホワイトの上等なシーツの上には、シンプルな羽枕とレースで飾られたクッションが数個ある。
 「扶桑お姉様…… 今、参ります」
 ベッドに彼女が腰掛けると、自分はカーテンを閉めた。後はアイコンをひとつ、ただひとつ押すだけである。 

 大きな溜息をひとつして、自分以外誰も居なくなった第二棟の天井を見上げた。
 「さて……」
 次は出撃せねばならない。だが、電子の海へ、深海棲艦の居ない静かな海へ戻っていった彼女達の魂へ無言の祈りを捧げる時間がもう少し欲しかった。モニターを閉じ、二つのスペースに向かって頭を下げた。

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 近代化や解体については絶対書いておきたいと思っていました。なんて大げさな、と思われるかも知れません。しかし、モニター越しでさえも物語の進行に、登場人物の運命に涙するのです。仮想空間に没入して、現実世界のように間近で、厳しい指示をださなければならないとしたら、自分はこうなるだろうと思います。
 
 書き始めたのは多分年明け位だと思います。小正月の話と同じくらいか先だったかな。でも、体調不良のこともあって長い間放置状態になってしまいました。また、遠征指示の後五月雨達を連れていく所で一旦切り、次の回の冒頭を挟んだ後続きを書いていたのですが、冗長だなと思い、一気に終わらせることにしました。ちなみに、那珂と木曽は既に改二になっており、重巡は全て改(衣笠は改二)済みです。

 あちこちで何度も書いてますが、眼の炎症はある程度治まったものの、変想をこねくりまわすだけの気力体力はまだちょっと……という所です。先日本家さつきで長文をアップしてぐったりしてしまいました。今は一歩歩いて5~6歩以上下がるという感じでしょうか。
 また、今回で一応操作関係の事は書き終えたと思いますから、今後は秋のイベントやそれ以前にあった事を思い出したり、官舎便りのような艦娘視点のエピソードを書くことが出来たらと思います。