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 今のところ艦これ日記が中心です。先輩提督の皆様のイベントや深部海域攻略アドバイスに深い感謝をしつつ。
 「艦これ変想」は、艦これを題材にした二次創作です。ご笑納ください。
 注:サイドバーは、カーソルを画面右端へ持って行くとひょっこりでてきます。

 

遠いどこかの港で 3:誇り高く

艦これ変想

 彼女達が疲労抜きをしている間、自分は提督執務室でぼんやりしている事が多い。
 この世界にいる間は、着ているだけで気分がビシッとする白い夏の軍装……つまり二種軍装を身につけた提督の姿だが、現実世界に戻って鏡を見れば、そこには年相応に白髪が交じり、くたびれた自分の姿がある。それでも、こうやって仮想世界を渡り歩くことを止めないのは、歳を取ってもくすぶり続けている何かがあるせいなのか。現実世界では決して解決出来ないくすぶりを仮想世界で炎にし、煌めきを得たいのだろうか。
 仮想世界で戦うことを覚えてから15年近く経っている。色々な世界を見てきた。プログラムで作られた敵を倒すことが殆どだったが、自分と同じように仮想世界に訪れた人とも戦った。一方的に叩きのめされたこともあったし、うまく煙をまいて逃げ切ったことも、「窮鼠猫を噛む」ではないが、時にチクリとダメージを与えたこともあった。しかし、白髪が多くなったと感じるようになった頃から、複雑な操作についていけなくなってきた。
 歳には、あらがえぬ。
 でも、くすぶりは止まぬ。
 だから、今の自分のプレーヤースキルレベルに合った仮想空間へ移動し、戦いを続けている。そう。今はこの南方の泊地が自分の拠点であり、窓の向こうに広がる海が戦場だ。

 史実の提督からすればお巫山戯でしかないこの姿だが、それでも駆逐艦から戦艦まで、現在130隻以上の軍艦を抱えた港を管理する司令官である。
 母港の概略を書いておこう。提督執務室は100人の彼女達を収容出来る宿舎も兼ねた官舎の中にある。その隣には拡張した宿舎があり、官舎と合わせ現在最大170人収容可能である。宿舎に隣接しているのは工廠。港には修理用ドッグが4スペース。官舎と港の間には資材倉庫があり、補給はここで行う。この仮想空間の時間は現実時間とシンクロしているが、常に快晴であり天候に変化は無い。少々寂しくはあるが、荒天によって交戦しづらくなるよりましだ。霧や雨に隠れて敵をあざむいて行動したりというのは史実にはあるが、この仮想空間のルールはそこまで細かくは無い。
 後述するが、この仮想空間の基地には、彼女達以外にも「作られた」存在が住んでいる。「妖精さん」と他の提督達が呼んでいるので自分もそれにならうとする。工廠や資料室で見かけることが多い。また、この仮想空間がメンテナンス中は、「妖精さん」の門番が閉じられた入り口の前に立っている。
 
 常に自分の左脇に浮かんでいるモニター。そこには今、この世界に来てしばらく経った頃の写真が幾つか表示されている。最初の頃の写真はない。あまりにも忙しすぎて節目節目に記念撮影をすることが頭からすっぽり抜けていたのだ。やっと川内が来た頃からの記録しか残っていない。後は、現実世界で記述した記録だけだ。その記録を元にしつつ、これを書いている。
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 天龍と龍田、その後名取が自分の艦隊に合流し、第二艦隊編成により遠征が可能になり、駆逐艦たちの足並みも揃ってきた頃だったと思う。第一海域である「鎮守府海域」を制覇した頃だったろうか。その時に彼女と出会った。


 一番目の図面は今でも「別の目的で」頻繁に出撃するが、羅針盤というものを体験するのが目的と言って良い。二番目の図面では、進路によって「補給コマ」で資源を持ち帰る事ができることを知った。三番目の図面で「うずしお」と遭遇して大事な弾薬を流されてしまう苦い経験を味わう。そして、他の海域もそうだが、四番目の図面は難易度が高い。高いが、四番目の図面を制覇しないと次の海域に進出することが出来ない。避けて通れない道だ。天龍と龍田、他の3人の駆逐艦達も傷だらけになりつつ制覇したと思う。その時活躍したのが祥鳳だ。だが、後に強力な空母を入手したためと、官舎しか無かった時だったので空母の近代化改修に供した。その後何度か救ってはいるのだが…… 最初の時と同じように、いつも優しい表情で工廠へ向かってくれている。だが、彼女が初期の自分の戦力に多大な貢献をしたことは忘れない。
 話が横に逸れた。
 二つめの海域の最初の図面に挑戦した頃だった。勝利の後、ちびっちゃい駆逐艦とも、身軽な軽巡ともちがう、きりりとした面差しの女性が瘴気から解き放たれて自分達の前に姿を現した。
 「貴様が司令官か?」
 両手を腰に、顎を軽く上げ、自分を見下ろすような視線で彼女は問うた。
 「左様。自分がこの艦隊の司令官である。艦名を聞こう」
 「私は那智。妙高型二番艦。呉海軍工廠生まれだ。よろしくお願いする」
 自分は即座にモニターで艦名を検索する。重巡? 重巡って何だ? 再び検索。「駆逐艦よりスペックは高いが、燃費、弾薬消費も高くなる。スロットは3。改装すると4」ふむ。戦艦未入手の自分にとっては現時点で最高火力を叩き出す可能性がある艦という訳だ。
 「今の自分の艦隊には重巡は居ない。君が先任重巡艦となる。頼もしい。是非頑張ってくれ」
 「期待に添えるよう努力しよう」
 自分は彼女に手を差し出した。那智は一瞬いぶかしそうな表情をしたが、握手をしてくれた。
 「この図面の終端まで進行予定だ。六番艦の後をついてきてくれ。会戦には参加出来ないが、自分の艦隊の戦いぶりを見守ってくれると有り難い」
 「それはぁ、私たちが頼りな~い、だめだめーな感じだから、背後から砲撃して気合いを入れてねぇ~? っていうことですかぁ~?」
 相変わらず良く分からない龍田の言葉に駆逐艦達が慌てる。
 「大丈夫だよ、僕がちゃんと見守ってるから……」時雨が少し寂しそうな表情をする「あんな事にはならないと……思う。多分」
 「冷静に行動すれば切り抜けることは可能だ。皆のダメージも少ない。戻ったらドックで休もう」
 流石、響。ナイスフォロー。自分はパンパンと手を叩き、
 「さあ、羅針盤を回すぞ。資源を拾ったら次はラストの会戦だ」
 
 「結構質素なのだな」
 「現実世界でも仮想世界でも、シンプルな生活を心がけているものでね。仮想世界だから酒も飲まんし、煙草は現実世界でもやらない」
 確かに、遠征などで得られるコインで購入したのはシンプルな執務机のセットとサイドボードだけだった。他の提督の執務室にはこたつやちゃぶ台があったり、中には檜風呂があるとかいうが、どういう目的でそいうものが用意されているのかは分からぬ。まあ、自分には関係ないことなのでどうでもよい。作戦を練ることができる静かな空間であれば十分だ。
 「さて、先ほどの戦いと母港の様子を見てどう感じたか聞かせてもらえると有り難いのだが」
 「重巡が足りない。空母も必要だ。せめて軽空母をもう1隻調達出来ないか。無論、装備の充実も大事だ」
 「ふむ……」
 「遠征隊に回す分を除くと軽巡の予備が全くない状態はいかん。北上がいるが、奴は大器晩成型だからな。安定した軽巡が必要だ。」
 色々と痛いところを突かれて内心眉をひそめたが、事実は事実。手がかりを探すためモニターで第二海域「南西諸島海域」第一図面(2-1)の諸データを見る。ふと気になって第一海域第四図面(1-4)の方も見てみるが、今の状態だと1-4よりも2-1を何度もこなす方が艦隊の彼女達にも資源にも優しいように思えた。
 「今、第二艦隊まで保有し、遠征をコンスタントにこなしているのと、建造を控えているため資源にはまだ余裕がある。軽巡クラス以上の建造を予定しているが、何分ギャンブル要素が強くてね。自分は賭け事はからきしだから、あまり気が進まない」
 「だが、強くならなければ負けるだけだ」
 「分かっている。いつまでも第一海域をうろうろしているつもりはない。先の海域開拓への気持ちはある。そのために必要なものが何か、研究中といった所だ」
 バシッ! 那智はいきなり執務机を叩いた。
 「貴様、たるんどるぞ!」彼女はこちらをにらみつけたまま、左手を後ろに回して海を指した「深海棲艦が近海でうごめいているのが貴様の目には入っておらんのかっ!」
 
 自分は両手を執務机に置き、しばし目を閉じた。分かっている。怨念と瘴気にやられた船魂が救いを待っていることは分かっているのだ。
 「……自分が至らない提督であることは十二分に承知している。だが、例え史実のような過酷な条件が課されていないとはいっても、無策無謀で突き進むのを自分は好かぬ。情報を収集し、吟味し、100%は無理だが、ある程度の確信が持てた後、行動に移したい。それまで、軽巡と共に第一海域と2-1海図の周回のみとする」
 「無謀無策……か」
 その時那智の脳裏には、レイテ沖海戦に至る迄の事が浮かんだのだろうか。進出しすぎたために兵站を維持出来なかった事。米軍と日本とでの艦船運用等戦略の差。現場と本土との認識の差。そして圧倒的な国力の差。
 「……だが、私は怖れぬ。マニラでの残念を晴らさねば不知火達に示しがつかん。常に前線に立ち、軽巡と駆逐艦を率いて敵を完膚なきまでに叩きのめすのが私の役目である」
 自分は立ち上がって那智の手を取った。
 「君の気持ちは分かった。だが、自分は先に取り返しのつかぬ失敗をした。自分は君たちを今後決して深海棲艦に奪回されぬよう慎重に指揮をする所存だ。大破しても帰投すれば再び会戦する機会がある。誇り高く生きることは、例え仮想世界であっても大切だと自分は思う。だが、敢えて言わせて欲しい。必ず全員母港に帰す。図面最終コマ前であっても大破が1隻でもあれば撤退帰投する。それはマイナスの帰投ではない。次の会戦で勝つため戻るのである」
 
 と、格好良く啖呵を切ってはみたが、当時の自分は昼戦と夜戦の違いも分からないペーペーだった。千歳の轟沈のショックから立ち直っていなかったのは確かで、それゆえ臆していたというもある。
 だが、那智が来てくれたことで自分に気合いが入ったのは確かだった。今まで躊躇していた本格的な建造に着手したのはこの後である。