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 今のところ艦これ日記が中心です。先輩提督の皆様のイベントや深部海域攻略アドバイスに深い感謝をしつつ。
 「艦これ変想」は、艦これを題材にした二次創作です。ご笑納ください。
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遠いどこかの港で2:掬えなかった涙

 いつ、この世界に来たのか、具体的な日付は忘れてしまった。2013年の秋が本格化する頃だったと思う。動機は「面白そうだから」「話題になっているから」「他の仮想世界に飽きたから」と、自分が仮想世界を渡り歩くいつもの理由と変わらない。しかし、この世界を訪れてチュートリアルを済ませ、母港の第一艦隊が揃い、予備艦が数隻増えた頃から、自分が久々に良い気分を味わっている事に気づいた。多分、この世界にしばらく世話になるだろう、もしかするとどっぷりと浸かる事になるだろうという予感があった。

 確かに彼女達は凄まじい戦史上の出来事等を踏まえた設定から作られているとはいえ、この世界ではそんな悲しい戦史を思い起こさせるような印象はない。そろいもそろって美しく、また、可愛らしく、笑ったり拗ねたり、びっくりしたり、おどおどしたりと、一般的な「仮想乙女/女性」のプロトコルに沿って作られている。しかし約束事はある。
 ひとつは、轟沈したら二度と戻らないということ。そして、近代化改修や解体というシステムだ。
 海域の中の海図を一つ選んでコマを進めていくと様々な種類の深海棲艦と会戦する。無傷で勝利する事もあるが、小破、中破、時に大破することがある。小破や中破なら先に進む事を自分は選ぶが、大破した場合、次の会戦で装甲がゼロになれば轟沈判定となり、その娘は一粒の涙を流した後、海の底に沈み二度と戻らない。彼女達の装備スロットに特殊アイテムを装備させた場合のみ、特殊アイテムが涙の雫を吸い取り、復活するが……涙を流させるのは気分が良くない。よって、先の大海戦のような、制限時間が決まっており、歯を食いしばっても先へ進むよう指示を出さねばならぬ時以外は帰投指示を出す。
 もう一つは近代化改修だ。これは「一人の娘の命を吸って、別の娘を強くする」というようなものである。会戦で勝利すると、深海棲艦となっていた「船魂」が呪いから解放され、自分の艦隊に保護される時がある。自分の母港に必要な娘であればそのまま育成するが、既に居る場合や予備として港に係留しておく必要がなければ、他の娘の近代化改修に供したり、解体……つまり、資源に戻すという作業を行う。
 ある人は言うだろう。轟沈させるのとどこが違うのかと。呪いから解放された娘が折角元に戻ったのに消してしまうのは轟沈と変わらないのではと。だが、自分は自分に言い聞かせる。近代化改修や資源にすることで、確実に戦力は増強される。ある程度育成し、主力となった娘を誤って轟沈させてしまうことは戦力を削ぐことと同意だが、近代化改修に供する事や資源化は「糧」であると。苦しい言い訳にしかならないが。
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 笑顔が綺麗な娘だ。
 「給油の仕事をしていたんです」
 「ええと、君は確か」モニターで検索する「……将来軽空母になるとあるが、何故給油の仕事を?」
 「はい。確かに水上機母艦を経て軽空母になりました。ですが、艦の大きさに余裕がありましたので」
 「なるほど」
 モニターを見たまま、生返事を返した。

 その頃はまだ彼女達の元となった軍艦の戦史を紐解く余裕がなく、基本的なシステムを覚えるだけで精一杯であった。「初心者向けページ」と首っ引きでやっていたのである。そこには、彼女は妹と共に、改装を重ねて高速の軽空母となり大活躍するので大事に育成するようにと書いてあった。ならば、よく出撃させ、どんどん育成していくのがいいだろうと判断した。
 「まだ自分の港は人員が少ない。海域も開拓を始めたばかりだ。フル回転で出撃してもらう事になるだろうが、共に頑張ろう」
 「はい!」彼女は笑って……背後から何かを取り出した「ところで、初顔合わせのお印にいかがですか?」
 彼女が差し出したのはスゥとする香りを放つ杯であった。
 
 だが、自分はまだその頃システムをよく把握してなかった。
 「回避……できないっ!」
 左腕にぬるりとした黒い武装を付けた深海棲艦が彼女に大ダメージを与えた。彼女の特徴である両脇のカタパルトは破壊され、水偵達も撃ち落とされてしまった。
 「タンク付近が被弾? 油が、大事な油が……」
 「大丈夫ですか?」共に戦っていた三日月が彼女の身体を支える「うッ……酷いケガ……」
 「え……ええ……でもまだ大丈夫よ」
 彼女は胸を押さえ、荒い息をしている。着衣はボロボロ、満身創痍。被弾した所から黒煙が上がっている。
 「司令官、どうしますか?」
 三日月が真っ直ぐな目で自分を見つめた。モニターをみると、彼女の所に「大破」と赤字で表示されている。
 自分は考えた。次はボスコマだ。進むしか無い。それゆえ進撃を指示した。彼女は少し寂しそうな顔をしたが、すすけた額を手でぬぐい、コクリとうなずいた。
 
 「妹を……どうか、よろしくお願いします……きっと……次に……出会うから……」
 ぐったりとした彼女に深海棲艦達がまとわりつき、瘴気を放つ。彼女の姿は瘴気の闇に飲み込まれ、やがて海へと沈んでゆく。
 ポタリ。
 涙がひとつ、海に落ちていった。
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 「しゅーつーげーきーーーーーーー!」
 でっかい声に驚き、下に伏せていた顔を上げた。鈴谷が不機嫌そうな表情を自分の顔に超接近させている。
 「なーにボケェっとしてるんすかあ? 皆、疲労取れてるよ。デイリーちゃっちゃと済ませちゃおうよー」
 「悪い悪い、ちょっと、その、思い出していたんだ」
 「ナニ思い出してたの?」
 「君が来るずーーーっと前の事」自分は椅子から立ち上がって、パンと手を叩いた「さあ、それじゃ行こう。他の皆を呼んできてくれ」
 「ういぃーっす!」
 
 ふと、執務室の窓から自分の港を見下ろす。今では同じ名前の……でも、違う彼女がそこで待機している。
 あれ以来、大破した娘を進軍させることは、先の大海戦で旗艦を除く五人に特殊アイテムを搭載させた時まで無かった。救えなかった彼女。掬えなかった涙。

 ノックの音がして、由良が入ってきた。すさまじい史実を背負った娘だが、静かな口調からはその壮絶さはみじんも感じられない。
 「遠征から戻りました。再出撃でよろしいでしょうか」
 「うむ」
 「では」
 
 モニターの時計は日付を超えた事を示している。だが、自分の港はまだまだ活動中である。
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 このまま調子よく連載できるのか? だってさー、遠征指示とクルージングとレベリングと日課だけで特にすることないもんね。